望海風斗、『ムーラン・ルージュ』ヒロイン役で大切な学び 宝塚退団から2年「初心に戻って作品に臨む日々」

宝塚歌劇団雪組トップスターに上り詰め、2021年4月に退団した望海風斗。その後は舞台を中心に活動し、2023年には第48回菊田一夫演劇賞を受賞するなど、実力を発揮してきた。そんな彼女が現在挑んでいるのが、バズ・ラーマン監督の映画『ムーラン・ルージュ』が煌びやかなマッシュ・アップ・ミュージカルとして装いも新たに舞台へと蘇った『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のサティーン役だ。宝塚を退団したときは「1からのスタート」という思いが強く「こんな大きな作品のヒロインなんて夢にも思っていなかった」という望海が、本作を経験して感じたこと、宝塚退団後の2年間の思いを語った。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』でサティーン役
本作は、1899年のパリを舞台に、ナイトクラブ ムーラン・ルージュの花形スター・サティーンとアメリカ人作曲家クリスチャンが恋に落ちるなか、さまざまな人間のピュアな思いや欲望が交差する姿が描かれる。望海はオーディションでサティーンの役を勝ち取った。

「バズ・ラーマン監督の映画は拝見していたのですが、あの世界観を舞台にしたとき、どんな形になるのだろう……という興味がすごくありました。サティーンを演じられることになったとき、最初は(映画版でサティーンを演じた)ニコール・キッドマンさん印象がすごくありましたが、日本人がやる上で、どういった表現ができるのだろうか……ということはたくさん考えました。またサティーンを演じることによって、どんなことが受け取れるのかはすごく楽しみでした」

6月24日からスタートした舞台は、インタビューが行われた7月末で、ちょうど折り返し地点に。望海はこの1カ月でどんなことを感じたのだろうか。

「本当にあっという間でした。とても大きな舞台で、お客さんもエネルギッシュ。1カ月経っても、まだまだ気持ちが新鮮でとても楽しい。それはダブルキャストで臨んでいるからということが大きい気がします。サティーン役の平原綾香さんはもちろん、クリスチャンもジドラーもダブルキャストなので、組み合わせ一つで違った表現や物語になる。それは本当に刺激的ですし、飽きることがないんです」

またバズ・ラーマン監督の映画の壮大なスケール、世界観を舞台で表現することも、ワクワクの大きな一つだという。

「表現が正しいか分かりませんが、バズ・ラーマン監督の世界観はかなりぶっ飛んでいました。それを舞台としてどう提示するかと考えたとき、普段のミュージカル以上により強い表現が必要でした。ちょっとやりすぎなのかも……と思うこともありましたが、そこまでやらないとバズ・ラーマン監督の世界観にはたどり着けないし、実際演じたものを観ても、全然違和感がなかったです」
井上芳雄・平原綾香・Kら“その道のプロ”に刺激
大きな舞台でヒロインという大役を全うしている望海。現時点でも得ることは非常に多いという。

「帝国劇場で、しかも世界的に有名な作品。当然『頑張らなきゃ、やらなきゃ』と、かなり肩に力が入っていました。でも非常に豪華なセットや衣装のなか、そこであまり力んでしまうと良くないのかなと。あくまで自然とそこに存在できることが重要だと思ったんです。回数を重ねるごとにだんだんと力が抜けてきている実感があります。周りは素敵な俳優さんたちばかり。甘えるというか、助けていただきながら、自分一人で頑張りすぎないということの大切さは気づきでした」

「甘えられる」カンパニー。そこにはさまざまなプロフェッショナルが集まっている。

「井上芳雄さんのようなミュージカル畑の方もいれば、平原綾香さんやKさんのような歌手の方もいる。映像の方もいるなど、すごく個性的でその道のプロフェッショナルな方が集まりました。お互い刺激し合って、高めていける。そして皆さん明るい!(笑)」

充実した1カ月だったという望海。楽しいことばかりだったというが、もちろん大変なことも多い。

「先ほどダブルキャストの魅力を話しましたが、一方で同じ役柄でも、演じる人によってまったく表現のアプローチが違うんです。そのなかでしっかり受けながら、ストーリーをちゃんと伝えなければいけないというのは、とても難しい。また、今回はオーストラリアのクリエイティブチームが入ってくださっているのですが、日本のお客さんならではの感覚ってあるじゃないですか。そのニュアンスを海外チームとすり合わせるのは、すごく難しかったです」

確固たる正解がない俳優という仕事。望海自身、考えこんでしまうこともある。

「今回はダブルキャストということで、表現の幅が広がる分、『これで正しかったのかな』と考えてしまう時間は長いですね。特に毎日公演がないので、思い悩む時間が増えてしまうんですよね。考えることはいろいろな発見にもなるのですが、頭で考え過ぎても良くないと思うので。そこは一つの課題でもあります」
宝塚退団時は「今の現状を全く想像していなかった」
試行錯誤しながら突き進む女優の道。宝塚歌劇団を退団してから2年の歳月が流れた。帝国劇場で世界的なミュージカルへの出演という現状は、退団当時から思い描いていた未来だったのか。

「退団を決めたとき、本当に先のことは考えていなかったんです。宝塚では男役しかやっておらず、それを突き詰めていこうという思いでした。だから、今の現状なんて全く想像していませんでした」

宝塚ではしっかり一つずつ結果を残しトップまで上り詰めた。それでも望海自身は、そのキャリアはリセットして1からのスタートだと考えていた。

「宝塚というのはやっぱり特殊な世界なんです。舞台の演目は変わりますが、基本的に演じる仲間たちは常に一緒。そんな仲間たちと一緒に乗り越えてきたという感覚でしたが、いまの舞台は、作品が違えばカンパニーもガラリと変わります。私は慣れるまでに時間がかかるので、仲間の大切さは身に染みて感じています。またこれまでは男役を追求してきましたが、女性も役もやるわけで。その意味では、本当に初心に戻って作品に臨む日々です」

とはいえ「宝塚でトップ」というキャリアは、最初から求められるものは高いのではないだろうか。

「確かに1からと言っても、周囲からは期待をしていただけているということは感じます。宝塚時代は1つずつ進んで、実績を積んでトップになったのですが、こうして大きな舞台で大役をやらせていただけることは、大きなプレッシャーです。でも舞台に向かうプロセスというのは宝塚時代から変わっていないと思っていますし、今回のサティーンが(ナイトクラブの)『ムーラン・ルージュ』を支えていかなければという気持ちの部分では、私も宝塚でトップにいるという経験をさせてもらったので、演じられたところもあると思っています」
日本発のオリジナルミュージカルに意欲
今年の4月からは『望海風斗のサウンドイマジン』(NHK-FM)というラジオもスタートした。舞台以外でも、活躍の場を広げている。

「私はあまり器用ではないので、慣れない部分についていけないこともあるのですが、この年齢でいろいろな新しいことに挑戦できるというのは、とてもありがたいですし、いい刺激になっています。一つずつの仕事を大切にし、表現の幅を広げて行ければと思います」

舞台『ガイズ&ドールズ』ではブロードウェイで活躍している演出チームが、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』ではオーストラリアのクリエイティブチームがやってくるなど、海外のカンパニーとの仕事は大きな衝撃だったという望海。

「海外の方の感覚で舞台を作るというのは、驚くことばかりでした。『ガイズ&ドールズ』では、アメリカから小道具を持ってきてくれて、すごくリアルを追及される演出家でした。本当にちょっとだけブロードウェイのかけらをもらったような経験でした」

「海外の舞台にも?」と問うと望海は「すごく刺激的なことだと思いますが、いまは日本発のオリジナルのミュージカルをやってみたいんです。もちろん海外作品もすごく楽しいのですが、やっぱり英語の歌を日本語の歌詞にするとどこか我慢しなければいけない部分が出来てきたりします。だからこそ、日本人が日本人のために日本で開発されたオリジナル作品に挑戦したいです」と野望を語っていた。なお、24年に望海が主演するミュージカル『イザボー』(末満健一作・演出)は日本発のオリジナルミュージカルとなる。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は東京・帝国劇場にて8月31日まで上演。
望海風斗
1983年10月19日生まれ、神奈川県出身。2003年に宝塚歌劇団に入団し、2017年に雪組トップスターに就任。2021年4月11日に宝塚歌劇団退団。近年は、舞台『INTO THE WOODS』『Next to Normal』『ガイズ&ドールズ』(22)、『DREAMGIRLS』(23)などに出演。2022年に第30回読売演劇大賞 優秀女優賞、2023年に第48回菊田一夫演劇賞を受賞。現在、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演中。NHK-FM『望海風斗のサウンド・イマジン』(毎週日曜21:00~)でパーソナリティを務めている。24年1~2月、東京・大阪にてミュージカル『イザボー』に主演予定。
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